春秋戦国時代、時代に翻弄され「妖婦」とみなされた絶世の美女がいた。鄭という国の公女「夏姫」である。この時代は、晋・楚が大国であり、その間の小国の政治は、術策を極めなければ生きられない。孔子が愛し尊敬して止まない子産もこの時代の鄭の宰相であり、同時代を生きた。傾国の美女うと謳われた越の贈り物「西施」もまた、自身の欲望や意志ではなく、その時代の権力者に弄ばれただけだが、夏姫もまた同様ではなかったろうか。中国には悪女は何人も歴史に登場するが、彼女もまたその部類ではないような気がした。宮城谷氏の「夏姫」救いの小説によって。三夫二君は、夏姫を手に入れると死んでしまう。しかし、その夏姫こそが薄幸なのではないだろうか。本書は、「風」を夏姫のイメージとして書き進んでいる。そもそもこの時代の小国が風に身を任せるしかなかったというイメージとダブル。おもしろかった。
0 件のコメント:
コメントを投稿