小林正典著「英国太平記」を読む。
「栄光のためでなく、富のためでなく、名誉のためでもない。ただ自由のためにのみ我々は戦う」。のちにアメリカ独立、フランス革命の礎となったその宣言は、隣の強国イングランドに迫害されながらも粘り強く戦いぬいたスコットランドの名もなき人々の魂の叫びだった。中世英国を描ききった一大歴史叙事詩。
今から700年前の1286年から1329年の40年余りのスコットランドを舞台とした戦乱の時代。当時の英国は1つの国ではなく、イングランド、スコットランドに分かれ、それぞれに王家を戴きながらも、実質的には有力な諸侯が領地を治めていた。そして、事故でスコットランド王アレクサンダー三世が亡くなってしまう。王の血を引くのは、ノルウェー王に嫁いだ娘が生んだ3歳の幼女のみ。これが物語の始まり。
国力に勝る南のイングランドが、当時別国だった北のスコットランドの併合を企てたが、スコットランドが激しく抵抗したためである。野心家で政策と計略に長けたイングランドの王、エドワード一世は、大ブリテン島の統一、さらにはフランス征服を虎視眈々と狙っていた。一方、時代の流れに押し流されながらも、幾多の悲運を乗り越えて人間的に成長を遂げ、ついにはスコットランドの王として祖国を独立に導くことになるロバート・ブルース。本書は、対照的な二人の王の生涯を縦糸に据え、横糸に両国間の戦場での数々の死闘、フランス等を巻き込んだ国際政治の権謀術数、苛酷な時代を懸命に行き抜いた人々などを克明に描いた歴史物語である。
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