2011年7月24日日曜日

西行花伝

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辻 邦生 著 「西行花伝」を読む。[E:book]美と行動の歌人、西行の生涯を浮び上がらせた絢爛たる歴史小説。「私自身が現実を超え、美の優位を心底から肉化できなければ、この作品を書いても意味がない」と著者自身が語る、辻文学の集大成。花も鳥も風も月も―森羅万象が、お慕いしてやまぬ女院のお姿。なればこそ北面の勤めも捨て、浮島の俗世を出離した。笑む花を、歌う鳥を、物ぐるおしさもろともに、ひしと心に抱かんがために…。高貴なる世界に吹きかよう乱気流のさなか、権能・武力の現実とせめぎ合う“美”に身を置き通した行動の歌人。流麗雄偉なその生涯を、多彩な音色で唱いあげる交響絵巻。

西行は、武士として一流であるばかりか蹴鞠や流鏑馬の名人としてもその名を知られ、鳥羽院の寵愛を一身に受けた、前途輝かしい若武者だった。しかし、そのその輝かしい20代に、彼は家族も地位も捨てて突如出家してしまう。待賢門院を慕うあまり出家したといわれているが、それだけではない。この世ではすべてが虚空の中にはかなく漂っているにすぎないと見切ってしまったとき、ならばなぜ生きているのかと考えると、そこに残るのは「言葉の力で残る」ことであり、それが歌の使命だと西行は悟ったのである。そのための出家。しかし、俗世から完全に離れることのできない姿がそこにある。鳥羽・崇徳・後白河・清盛・頼朝・・・この時代を彩る人々と関わりながら、世の無常にも、終生諦めることはなく、静かに、しかし、力強く生きた人間・西行が描かれる。









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