北方謙三 南北朝シリーズ「陽炎の旗」を読んだ。これにてシリーズものをすべて制覇。後醍醐天皇の皇子・懐良親王が肥後の菊池武光とともに、九州統一を目指す「武王の門」の後日譚にあたるが、架空の人物によって物語りは進んでゆく。その架空の人物とは、足利直冬の嫡男・足利頼冬、前征西将軍宮・懐良親王が息子・月王丸と孫の竜王丸だ。時は、三大将軍足利義満の時代。天皇家をなくし自ら王たらんとする義満。おのが親王の血をひいているが故に天皇家を一つにしたいと願う月王丸。相反する方法で南北朝の動乱に終止符を打とうとしている2つの勢力下で、男の夢をかけた闘いが繰り広げられる。義満の野望に己の武人としての人生を賭け暗躍する管領職・斯波義将。九州探題の兄・今川了俊の地位を守り、斯波を牽制する今川仲秋、南北朝合一を画策し、敢えて変節漢の汚名をきた楠木正儀(波木)、斯波家の侍大将で頼冬と剣の勝負を決せんとする大野武峰(架空)などキャラクターは多彩だ。虚構のヒーロー「足利頼冬」を通し、歴史の光明を見出す渾身の力作といえよう。そして相変わらず男たちが恰好よい。クライマックスの大野武峰との一戦は、戦闘シーンは短いながら、本を読むだけで固唾を飲むような迫力である。「業のようなもの」「宿運」で、頼冬は、第三者から見ればやる必要のない武峰との戦いに臨む。彼らが賭けているものは何であろうか。「男」。
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